1955年 東宝
白黒/スタンダード/モノラル/108分
一人の少年が、複雑な人間関係の中で次第に成長していく様子を、桧(ひのき)に似ているが桧とは違い、明日は桧になろうと一生懸命になっている「あすなろう」という木に託して描いたものである。井上靖の自伝的要素の強い小説を映画化するにあたり、原作にある小学生と中学生時代のエピソードをそのままに、新たに高校生時代が加えられ、三話によるオムニバス構成になっている。これは長年黒澤明の助監督をつとめ、この後『裸の大将』(1958)や『黒い画集 あるサラリーマンの証言』(1960)など秀作を発表した堀川弘通が監督に昇進するのを記念して、黒澤自身が脚色したものである。堀川監督の叙情性だけでなく、黒澤の資質をうかがえる点でも貴重な作品である。