雨月物語

雨月物語

1953年 大映(京都)
白黒/スタンダード/モノラル/97分

解説

上田秋成の短篇「浅茅ケ宿」と「蛇性の淫」を原作に、欲望と幸福、戦争と平和といった、いつの時代にも通じる普遍的な主題を、戦国時代の二組の夫婦を通じて対照的に描いた作品だが、ここにはリアリズムだけでは律しきれない溝口健二監督の美学が明瞭に表れている。霧に覆われた湖を行く船や朽木屋敷の描写、森雅之扮する源十郎が故郷の家に帰ってからの場面などに、独特な様式美を感じとることができる。この幻想性は溝口監督生来の資質の一つであり、戦前は、『日本橋』(1929)や『滝の白糸』(1933)など泉鏡花の作品を盛んに手掛けた事実もある。冷徹なリアリストを支えている柱が、洗練された美意識であることを如実に教えてくれる作品であり、やはり溝口監督は日本映画を代表する「美と残酷」の映画作家と言えよう。艶のある画面を作り出したカメラマン、宮川一夫の功績も見逃すことはできない。

スタッフ

原作
上田秋成
脚色
川口松太郎
依田義賢
監督
溝口健二
撮影
宮川一夫
照明
岡本健一
録音
大谷巌
音楽
早坂文雄
美術
伊藤熹朔

出演者

若狭
京マチ子
阿浜
水戸光子
宮木
田中絹代
源十郎
森雅之
藤兵衛
小沢栄太郎
老僧
青山杉作
部将
羅門光三郎
村名主
香川良介
衣服店主人
上田吉二郎
神官
南部彰三